新人や後輩を育てていると、「全部マニュアルになっていれば教えるのが楽なのに」とため息が出ることがありますよね。
特に、状況がコロコロ変わる現場や、自分の頭で考える場面が多い仕事ほど、その気持ちは強くなります。
でも実際の仕事を見渡してみると、完璧に手順化できる業務って意外と少ないものです。むしろ、私たちが本当に価値を発揮している部分ほど、言葉にしにくい“グレーゾーン”にあります。
だからこそ「マニュアルにできない仕事」をどう次の世代に渡すかが、育成の大きなテーマになっていきます。
マニュアルが通用する仕事と、しない仕事
事務作業や機械操作のように、誰がやっても同じ結果になるべき仕事は、マニュアルと相性が抜群です。型を作り、徹底的に言語化すれば、再現性が高まります。
一方で、お客様の表情を見て提案のタイミングを変えたり、トラブル時に優先順位を瞬時に判断したり、正解が一つではないプロジェクトの着地点を探ったり。
こうした仕事は、どれだけ細かく書いても、現場の空気やニュアンスまでは落とし込めません。
「臨機応変に対応して」と言われても、経験がない人にはその“応変”が分からない。言葉や身振り手振りでも伝えることができない…ここが教育の難しさです。
「見て覚えて」が通用しない理由
昔ながらの方法では「背中を見て覚えろ」という教え方がよく言われていましたよね。かなり難易度が高い方法だと思います。
そもそも、初心者は“何を見ればいいのか”が分かりませんし、何が習得できるかもわかりません。しかも、習得しようという意欲も必要になってきます。
ベテランが無意識に行っている判断や、わずかな違和感への気づきは、初心者には透明で見えません。
表面的な動作だけを真似しても、本質にはたどり着けないところが難しい…。
だからこそ、「今はここを見ているよ」「この瞬間はこう判断したよ」と視点をガイドしてあげることが必要になってきます。
結果ではなく「判断の理由」を渡す
マニュアルにできない仕事を教えるとき、一番価値があるのは“結論”ではなく“判断の理由”です。
「こうしておいて」と結果だけ伝えるのは、その場は早いけれど、相手の成長にはつながりません。
それよりも、
「さっきのお客様は、時計を気にしていたから説明を短くした」
「この数値が少しズレていたから、念のため確認した」
こうした“思考のプロセス”を言葉にして渡すことで、相手の中に判断軸が育っていきます。
この軸があれば、次に似たような場面に出会ったとき、自分で応用できるようになっていくというやり方です。
正解を教えすぎないという“我慢”
育成で一番の敵は、実は教える側の“親切心”。
困っている姿を見ると、つい答えを教えたくなりますよね。でも、いつも答えを与えてしまうと、相手の「考える筋力」は育ちません。
少し時間をかけて考えてもらう。本人の仮説を聞いてみる。効率が悪くても、途中で軌道修正しながら進ませてみる。この“もどかしい時間”こそが、判断力を育てる土壌になります。
育てる側の役割は、正解を渡すことではなく、正解にたどり着くための“問い”を立ててあげることなのかもしれません。
教わる側だけでなく、教える側も経験値や指導のやり方は難しいですし、自分に余裕がなければなかなか相手をしてあげられないかもしれません。
失敗は「経験値の獲得」として扱う
マニュアルがない仕事では、失敗は避けられません。だからこそ、失敗した後の扱いが重要になってきます。
「次から気をつけて」で終わらせるのではなく、
どこで判断を誤ったのか どんな情報があれば別の選択ができたのか
これを一緒に振り返る時間が、成功体験よりも深い学びになります。
失敗を責められない環境があるからこそ、人はリスクを取って自分で判断する勇気を持てるようになります。
小さな成功体験を積ませる
マニュアルにできない仕事は、難易度が高い分、成功体験が少なくなりがちです。だからこそ、意識的に“小さな成功”を作ってあげることが大切です。
少し頑張れば達成できる仕事を任せる。うまくいったら具体的に褒める。
「あのとき、お客さんの表情を見て対応を変えたよね。すごく良かったよ」といったフィードバックは、本人の自信につながり、次の挑戦を生みだしていきます。
答えは一つじゃないことを伝える
マニュアル化できない仕事の面白さは、答えが一つではないこと。でもこれは、教える側にとっては難しさでもあります。
「私ならこうするけど、他のやり方もあるよ」という姿勢を見せることで、相手は自由に試せるようになります。
失敗したら一緒に考えればいいし、うまくいったら学ばせてもらえばいい。教える側も完璧でなくていいのです。
結局、人は“時間をかけることでしか”育たない
効率が求められる時代ですが、マニュアルにできない仕事を育てるには、どうしても時間が必要です。
対話して、やらせてみて、振り返って、また挑戦する。この繰り返しの中でしか、本当の意味での仕事力は育ちません。
今の時代、「せっかく育てても辞めてしまうかもしれない」という不安は、多くの人が感じていると思います。
それでもなお、人に時間をかけ、判断の理由を言葉にして渡すことには意味があります。
マニュアルにできない仕事を育てるとは、「答え」を教えることではなく、「判断できる人」を育てることなのではないでしょうか。